IYO DENTAL ASSOCIATION

山辺 一実先生の講演要旨
生活の場面から見た嚥下障害の観察とアセスメント


【早く始めることが大切】
 嚥下障害ってなんとかならないの?嚥下のリハってどうして難しいの?難しくしているのは人と環境(システム)ではないか。人というのはドクターがいて看護師さんがいてST、PT、OTがいて、環境というのは経営を含めた病院の環境が困難にしている。院長さんの考え方次第で、例えば看護婦さんがアプローチしようと思ってもお医者さんが危ないからやめときなさいと言ったらだめだし、嚥下食を作って支援していこうと思ってもお宅のおじいちゃん一生口から食べられないよなんて言われるという環境のなかで、家族は大きなダメージを受ける。お医者さんを頂点としたチームが支えるような概念が必要じゃないかと思う。一般的には脳卒中になって嚥下障害になってしまうと、機能障害で体力が低下し食べられなくなって、レベルが落ちて、最後は肺炎で亡くなる。なぜこうなってしまうのか。それは早期の対策が少ないからではないか。早期リハ。これは私の親しい脳外科の先生の取り組みをご紹介する。
 71歳女性左片麻痺と左の半側空間失認の患者さんと、66歳男性右片麻痺と失語症の患者さん。検査時の意識レベルは二人ともJ.C.S. I-3。VFでみると71歳の女性はゼリーを奥まで入れると嚥下が起きます。71歳の女性は66歳の男性はなかなか嚥下が起きない。二人の違いはどこでしょう。実は最初のおばあさんは発症後1ヶ月以内に経口訓練を始めたのに対して、2番目のおじさんは練習を本格的に開始したのは、発症3ヶ月後からだった。発症して最初の1〜2ヶ月の間にゴハンを食べる練習が始められると、3ヶ月間なんにもしないでそこから始めるよりはずっと簡単にゴハンを食べられるようになる。この脳神経外科のICUでは看護師さんが、遅くとも発症1〜2週目ごろから口腔ケアを開始している。看護師さんはドクターと一緒に私のセミナーを受講している。チームを支えていく役割がドクターにある。

【嚥下障害の評価の実際】
 それでは、嚥下障害をどのように視(診・看)ていけばいいのか。目の前にいる患者さんをを評価しなければならないとき、「左の手で右の耳を挟んで口を開けて舌を出してください」という。左の手が大事です。次に大事なのは口をあけてください、舌を出してください、というところ。これは自分でやって見せてはいけない。言葉を理解して自分でやってもらう。口が開くということは三叉神経は大丈夫。言語理解は失語なし、左半球はok、というふうに確認していく。
 簡単なスクリーニングをしたら,次はもう少し詳しく見ていく。嚥下障害の診断と評価はナースステーションで病歴の聴取、その後病室で構音機能の評価をして、お昼に摂食場面の観察をする。病歴聴取のポイントは1.嚥下障害が起きたのはいつ頃か? 2.症状の進行のスピードは? 3.食物のタイプと嚥下困難の度合い。(水分と固形のいづれでムセが出るか)患者さんと話しながら、精神状態は、痴呆があるか?また、高次機能はについては、注意および見当識、記憶、失認、失行などがないか?顔貌の観察は、口唇、舌、下顎、軟口蓋、咽頭、喉頭の運動障害の程度、発話の特徴なども聞き取る。
 (ビデオを見た後で)この患者さんの特徴で、どのような点に気が付きましたか。会話が鼻に抜けている。鼻咽腔閉鎖不全がある。発音機能をチェックするのは、「パンダのたからもの」がある。「パ」が悪かったら、「ダ」は舌尖の挙上不十分 「カ」は奥舌の挙上不十分口唇の閉鎖不全などだ。
 見てわかることの観察のポイントとして、意識レベルは顔の色,表情これらは先行期、運動障害の程度は顔面の麻痺、上下肢の麻痺、流涎など。姿勢保持は座位バランス、これは準備期にかかわる。体幹保持、呼吸状態では速拍、喘鳴、咳嗽、喀痰、顔色。器械的には、パルスオキシメーターは有効。
 次に会話からわかることは、開鼻声、明瞭度の低下、声がとぎれる、嗄声など。動きからわかることは、麻痺性構音障害で口唇、頬部、舌、軟口蓋などの発語器官。嚥下から咽頭、喉頭、呼吸など。触診からわかることは知覚。喉頭の挙上があるかどうか。甲状軟骨の動き、軟口蓋・口蓋帆などの口蓋反射をみる。
 発話の障害を調べるのは,ASMT(旭式発話メカニズム検査)がある。最長呼気持続時間(ゆっくり吹く)は鼻咽腔閉鎖不全や呼吸機能などのの障害を反映するし、ローソク消しは鼻咽腔閉鎖不全ではできない。口蓋反射は多くの高齢者で消えている。 精密水飲みテストは2ccから始めるが、冷水を使ってする前に口腔ケアを必ずすること。精密水飲みテスト、反復唾液嚥下テスト(RSST)テスト、食物テスト( Food Test)はぜひ使って欲しい。
 摂食場面の観察ポイントは食物の認識、食器の使用、食事内容、一口量、口からのこぼれ、咀嚼、嚥下反射が起こるまで、むせ、咳、声、食事時間,摂食のペース、食欲、疲労などを観察する。食事の時間が長くなるのは、口の中から食道に食べ物が送られないということで、喉頭が挙がっていない。喉頭が挙がっていないと咽頭に食塊が送られないし、食道が開かない。喉頭のリハビリについて、裏声を出すことが効果的だ。カラオケなどは最適。声をかけたときに返事をさせるのも良い。このときに喉頭が挙がる。そして食道が開く。歌の練習は嚥下リハビリに役に立つ。

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