IYO DENTAL ASSOCIATION

講師の紹介とセミナーの内容

第5回 紙屋 克子先生・木佐 俊郎先生・升田 勝喜

 紙屋 克子氏は元脳神経外科病院の臨床ナースで、意識障害患者の看護のエキスパート。現在、筑波大学で大学院生を対象に看護学の研究指導を行っている。講演では、決して見捨てない、諦めない、子を思う母親のように障害者のケイパビリティーを信じて、「口から食べる」を看護の大きな目標として、麻布脳神経外科病院での臨床ナースの時代の熱意と愛情あふれる看護の一端を窺い知ることができた。

 医師からホープレスとされた意識障害患者を看護目標を明確に設定した濃厚なチームアプローチによって、独特の脳神経を刺激するケアを取り入れ、次から次へと回復させていく。食事に関してはおいしく、噛み応えのあるものを食べることが重要と考えており、十数年前からすでにおいしい介護食を工夫していたことが分かる。

 口から食べるためには、どんな障害の重い人でも起こすこと(頭位が最高位に来るよう)が重要であり、覚醒のレベルも上げることになる。日内リズムの確立のためにも起こすことは大切で、シーティング体位の確立が口から食べるための目と手の供応という点でも大切である。トランポリンや、端座位での抗重力的な揺らぎを与えることが、間脳を賦活させるためのキーポイントとなる。

 食べるためには、項部後屈(顎が上がってしまう、首が後ろに反った状態)を是正し首の自立を図る必要があるが、そのためには筋群の拘縮を取り、体幹のリラクゼーションを図ることが大切になるが、中でも尖足を取ることは足底接地という基本姿勢をとる上でも重要である。この筋群の短縮を取るために非常に有効な手段が、腹臥位を取らせることで、膝関節・足首・手指の可動域が広がる。それに呼応して僧帽筋の短縮が取れ、項部後屈位が是正される。腹臥位は流涎の抑制にも著効がある。これら、体位変換の合理的な仕方も、モデルを用いて実演していただいた。「人間の尊厳」の理念が根底に流れる感動を呼ぶ講演となった。

 木佐 俊郎氏はリハビリ医で、摂食・嚥下の専門家である。嚥下造影をその診断の武器として、早くから採用し、造影のためのチェアーも開発されている。氏を何と言っても有名にしたのは、IOC(またはOE法)と呼ばれるリハビリの概念を導入した経管栄養法の開発である。つまり、これまでの嚥下障害患者における経管栄養法の鼻から胃まで留置されていたカテーテルを、食事時だけ口から通す方法を取るよう改めた。これによって、チューブを常時留置することによる非生理学的な弊害の多くが解決され、その都度チューブを嚥下し、咽頭から食道にかけて間歇的に刺激を与えることにより、リハビリ的な嚥下反射の復活を図ることができる。しかも患者によっては、自分でチューブの抜き差しが可能であるため、そのリハビリ的効果と人権を尊重する要素は大となる。様々な症例における嚥下造影のビデオの提示によって、嚥下障害とその回復を分かりやすく説明された。気管カニューレについても、発声や嚥下リハビリにかなうような機能のものを選択する大切さを説かれた。

 升田 勝喜は、嚥下障害のある在宅患者の事例について、家族の献身的な協力やすばらしい観察力によって、口腔リハビリに取り組んでいる模様を紹介した。決して諦めなかったある家族のケースが熱意を持って紹介された。

実行委員長 升田 勝喜

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